
親が亡くなり、遺品を親族へどう分けるか。形見分けは「どれが高いか」ではなく「どの順番で進めたか」で揉めます。結論から言うと、①相続人を確定する、②相続の方針(相続するか放棄するか)を先に決める、③残す物と処分する物を仕分ける、④誰にどう声をかけるかを決める、⑤誰が何を受け取ったかを記録する——この順番を崩さないことです。とくに相続放棄を考えている方は、遺品に手を付けた時点で選べる道が狭まることがあります。順番さえ守れば、形見分けは家族が故人を思い出す時間になります。
目次
形見分けは、故人が愛用していた品を家族や親しかった人が受け継ぐ慣習です。法律で定められた手続きではありません。これに対して遺産分割は、相続財産を誰がどれだけ取得するかを決める法律上の話。遺品整理は、家一軒・部屋一室の物量を実際に片づける作業です。この三つは同じ時期に並行して進むため混ざりやすいのですが、性質はまったく違います。
岡山県内で遺品整理のお手伝いをしていて、いちばん多く見るこじれ方がこれです。「お母さんの着物をもらっただけなのに、なぜ責められるのか」という側と、「相続の話が終わっていないのに勝手に持ち出された」という側が、同じ出来事を別の言葉で語っている。片方は形見分けのつもりで、片方は遺産分割の話をしている。どちらも悪気はありません。だからこそ、先に線を引いておく必要があります。
| 形見分け | 遺産分割 | |
|---|---|---|
| 性質 | 慣習。法律上の手続きではない | 法律上の手続き |
| 対象 | 愛用品・写真・衣類など思い出の品 | 金銭的な価値のある財産 |
| 決め方 | 親族間の話し合い | 相続人全員の合意(遺産分割協議) |
| 先にやるべきか | あと | 先(少なくとも方針だけは) |
ここが形見分けの最大の落とし穴です。国税庁ホームページ「No.4105 相続税がかかる財産」は、相続税の対象になる財産について、「現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」と説明しています。
▶ 「宝石」が名指しで挙げられている
母親の指輪やネックレス、父親の腕時計は、気持ちの上では紛れもなく形見です。しかし扱いの上では、金銭に見積もることができる財産にあたり得ます。骨董品、美術品、自動車、そして値の付く楽器や着物も同じです。「形見だから」という理由だけで話し合いの外に置くと、あとから「あれは遺産だったのでは」という指摘が出ます。
この線引きは、実際に品物を見ないと判断できないことも多いものです。貴金属やブランド品の扱いについては、遺品整理で出た貴金属・ブランド品の扱い方|売却・形見・供養の判断で詳しく整理しています。
「形見分けは四十九日のあと」と言われることが多く、仏式では四十九日の法要、神式では五十日祭のあたりを区切りにするのが一般的とされます。ただしこれはあくまで慣習であり、法律や統一された規則があるわけではありません。宗派によっても、地域によっても、家によっても違います。
実務的には、「時期そのもの」よりも「全員が納得した場で決めたかどうか」のほうが、はるかにトラブルを左右します。四十九日を過ぎていても、一人だけ知らないうちに進んでいれば揉めます。逆に、四十九日より前でも、全員が集まって決めたことなら後を引きません。
ここが岡山ならではの事情です。県内のご依頼で多いのが、「子ども世代のうち一人だけが岡山に残り、他は関西や関東に出ている」というかたち。そうなると、親族が顔を揃えられる日は法要・お盆・お彼岸・年末年始くらいしかありません。私たちが現場でお会いするご家族も、「次に全員が集まれるのは半年後」というケースが珍しくないのです。
この制約があるため、岡山では「集まれる日に合わせて形見分けの日を決め、そこから逆算して片づけを進める」という組み立てが現実的です。集まれる日が先に決まっているなら、その日までに候補の品を出して並べておくところまでを終わらせておく。当日は選ぶだけにする。これだけで、限られた時間の使い方が変わります。
「誰に声をかけるか」を考える前に、法律上の相続人が誰なのかを押さえます。国税庁ホームページ「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」によれば、死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外は第1順位が子、第2順位が直系尊属(父母や祖父母など)、第3順位が兄弟姉妹の順で相続人になります。
同ページには、注意すべき記載が二つあります。「相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます」、そして「内縁関係の人は、相続人に含まれません」。長年連れ添った内縁のパートナーがいる場合、その方は相続人ではありませんが、形見分けの場から外していい相手かというと、それはまったく別の話です。ここを混同すると、いちばん深い禍根が残ります。
相続放棄を検討している方は、このステップを飛ばしてはいけません。e-Gov法令検索「民法」の第921条(法定単純承認)は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」には「単純承認をしたものとみなす」と定めています。単純承認とは、裁判所の説明を借りれば「相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ」ことです。
つまり、故人に借金があるかどうか分からない段階で遺品を持ち出したり売ったりすると、放棄という選択肢そのものが失われかねない、ということです。
期限にも注意が必要です。裁判所ウェブサイト「相続の放棄の申述」のページは、「申述は,民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないと定められています」としています。ただし同ページには、3か月以内に調査してもなお判断材料が得られない場合は、「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てにより,家庭裁判所はその期間を伸ばすことができます」とも書かれています。間に合わないと思ったら、まず期間を延ばす方法があることを知っておいてください。
現金・通帳・印鑑が出てきたときの扱いは、形見分け以上に慎重さが要ります。遺品整理で見つかった現金・通帳・印鑑の扱い方|相続放棄の注意点もあわせてご覧ください。判断に迷う場合は、弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。
形見分けの候補を選ぶ前に、家全体を「残す・迷う・処分する」の三つに分けます。ここを飛ばして「まず形見を選ぼう」とすると、選ばれなかった物が宙に浮いたまま片づけが止まります。
この仕分けは、業者に依頼する場合はさらに重要です。国民生活センターのウェブサイトで2018年7月19日に公表された「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」には、相談事例として「処分しないようにと頼んだ物を勝手に処分された」が挙げられており、消費者へのアドバイスにも「残しておく遺品と処分する遺品を明確に分けておくようにしましょう」と明記されています。
私たちが作業に入るときも、必ず最初に「絶対に触らない場所・箱」を決めていただきます。段ボールに大きく印を付けて一部屋にまとめておく、それだけで事故はほぼ防げます。
ここが親族間トラブルの核心です。品物の値段ではなく、「自分は後回しにされた」という感覚が対立を生みます。
親族の数が多いご家庭ほど、この「順番」の設計が効いてきます。私たちが伺う現場でも、親族同士の付き合いが濃く、「誰から先に声をかけるか」そのものが意味を持つご家庭は珍しくありません。決めきれないときは、相続人の代表者が「今回はこの順で回します」と最初に宣言してしまうのが、結局いちばん角が立ちません。
形見分けが終わったら、「誰が何を受け取ったか」を簡単でいいので記録します。スマートフォンで品物を撮り、受け取った人の名前をメモしたリストにして親族で共有する。それだけです。
記録は疑いを晴らすためではなく、思い出せるようにするためのものです。半年後、一年後に「あの茶碗はどこへ行ったんだったか」という話は必ず出ます。そのときリストがあれば、それは疑念ではなく思い出話になります。
▶ 1. 相続放棄を検討中に、遺品を持ち出す
前述のとおり、相続財産の処分は単純承認とみなされる場合があります。方針が固まるまでは動かさないのが安全です。
▶ 2. 値の付きそうな物を、話し合いの外で分ける
貴金属・骨董・美術品・自動車・値の付く楽器などは、相続の話が済んでからにします。「これは形見だから」は、後から効かないことがあります。
▶ 3. 目上の方に「差し上げる」形で押し付ける
形見分けは本来、目上から目下へ渡されるものとされることが多い慣習です。目上の方には、こちらから贈るのではなく「ご希望があればお声がけください」と伝える形にすると、失礼になりにくいとされています。ただしこれも地域差・家ごとの差が大きい部分なので、迷ったら年長のご親族に確認してください。
▶ 4. 受け取りたくない人に無理に渡す
住まいの事情で物を増やせない方、遺品を持つことがつらい方もいます。「受け取らない」も選択肢だと最初に言っておくと、断りやすくなります。
▶ 5. 汚れたまま・壊れたまま渡す
衣類や食器は、クリーニングや洗浄をしてから渡すのが親切です。渡す前にひと手間かけるかどうかで、受け取る側の印象は大きく変わります。
形見分けが終わると、必ず「誰も引き取らなかった物」が残ります。ここで自治体回収の段取りを知らないまま進めると、片づけが止まります。
岡山市公式ホームページ「不燃ごみの出し方」には、「不燃ごみは月1回収集していますが、お住まいの地域によって収集日は異なります」と記載されています。陶磁器の茶碗や皿、ガラスコップ、鏡といった、形見分けで最後まで残りがちな品目はこの不燃ごみにあたります。つまり、出し損ねると次は約一か月後です。
粗大ごみも同様に、思い立った日には出せません。岡山市公式ホームページ「粗大ごみの出し方」には、「戸別収集の申し込み・変更・取り消しは、収集予定日の3日前(土日を数えない)の午後4時で締め切らせて頂きます」とあります。受付センターの電話受付時間は月曜から金曜の午前9時から午後4時までです。
岡山市のページでは、収集または持込みができないものとして、タイヤ、ドラム缶、仏壇、ピアノ、モーターバイク、バッテリー、消火器、ガスボンベ、フロン類を使用している製品(回収証明書のあるものを除く)が挙げられ、「買ったお店か、取扱店にご相談ください」と案内されています。仏壇とピアノが入っている点は、遺品整理では必ず引っかかるところです。
なお、粗大ごみの手数料は品目やサイズによって異なり、改定される可能性もあるため、金額は必ず岡山市・倉敷市の最新の公式情報でご確認ください。
遺品整理そのものの進め方や、生前整理との違いについては、遺品整理と生前整理の違い|どちらを選ぶべきか家族で考えるでまとめています。
コウノ産業は岡山県全域で不用品回収・ゴミ屋敷片付け・遺品整理を承っており、月間およそ300件の現場に伺っています。形見分けのお手伝いで私たちができるのは、次のような部分です。
「何をどう分ければいいか分からない」という段階でのご相談で構いません。まずは現状をお聞かせください。
出典:国税庁ホームページ「No.4105 相続税がかかる財産」/国税庁ホームページ「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」/e-Gov法令検索「民法」/裁判所ウェブサイト「相続の放棄の申述」/国民生活センター「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」(2018年7月19日公表)/岡山市公式ホームページ「不燃ごみの出し方」/岡山市公式ホームページ「粗大ごみの出し方」。本記事では、これらの内容を要約・編集して紹介しています。
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